絲山 秋子 沖で待つ
芥川賞受賞作。絲山 秋子氏の沖で待つを読んだ。
- 絲山 秋子
- 沖で待つ
アマゾンの紹介文。
仕事のことだったら、そいつのために何だってしてやる。そんな同期の太っちゃんが死んだ。約束を果たすべく、私は彼の部屋にしのびこむ-。仕事を通して結ばれた男女の信頼と友情を描く表題作のほか、「勤労感謝の日」を収録。
先に感想を書いてしまうと、ちょっと物足りなかった。
話はそれなりに面白いし、文体もストレートで簡潔で好感が持てるのだが、
個人的には小説にはもっとハードなものを求めてしまう。
他の芥川賞受賞者、町田康や吉田修一のように、
読んだ後に自分の世界観が崩れて言ってしまうようなものが欲しい。
芥川賞には、きっと「時代が描けている賞」と「時代は描かないけどいい内容の賞」に分かれているんだと思った。この本は、前者。
さて、内容。
男女の信頼と友情を描いた作品。
が、男女の友情が描けているのか、描けていないのかはよく分からなかった。
というのは、文体は読みやすくてすいすい進めるし、主人公の考えていることや感情はよく
伝わってくるのだが、結局二人の間の関係性がどうだったのか、太っちゃんが何を考えていたのかは明確にならないままになっているからだ。
きっと作者はあえてぼかして書いているのだと思うが、これを読んでも
「男女間に友情は成立するのか?」という問いに対する答えは得られないだろう。
逆にこの本を読んで、次のようなことを感じた。
「結局のところ人間は分かり合えない。
友情だって消しゴムのように物理的に存在するものでない以上、
あると思うのも、ないと思うのもその人次第なのだ。」
最後のシーンで太っちゃんと語りあうシーンは、まさしく主人公が自分の中の
太っちゃんと語り合っているが故ではないかと思った次第。
この本を、友情について想像する余地を残している、と捕らえるのか、
テーマが描けていないと思うかは、好みの問題になるのだろうと思う。
他の人の書評を読む限り、他の本を薦めている人も多いので、他のも読んでみようと思う。
読みやすいし。
ところで太っちゃんって、「ふとっちゃん」でいいんだよね?